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23-04-22

  2月14日。バレンタインデー。  一年間の中で男子が最も色めきたつ日だ。  義務教育までは授業と関わりのない物、特に不要な飲食物の持ち込みが禁じられていたのだが、高校になって一気に自由になった。給食という制度がなくなった影響もあるのだろう。毎朝のHR前にはコンビニで買ってきたおにぎりを食べている運動部の姿もちらほらと見かける。僕はどちらかというと、まだこれまでの習慣が抜けきらずにいる。学校でお菓子をつまむ、という行為自体に、そこはかとない忌避感を抱いてしまう。  とはいえ、だ。  同じ部活に所属するたった一人の先輩に対して義理チョコの一つも贈らないというのは如何なものか。別に強要しているのではない。近頃は社会全体の意識の変革もあって義理チョコを控える風潮すらある。けれど一般常識的に考えたら、絶賛青い春を謳歌している男女二人きりのオ・カ・ル・ト・探・偵・部・において、バレンタインの気配すら感じさせないクールすぎる対応をされたら、いくら僕だって不満に感じてしまうのは当然で──。  時刻は20時45分。  僕は隣の部屋を尋ねた。  インターフォンを鳴らすと──  …がちゃ、とドアが少しだけ開いた。 「────…?  こんばんは、葵あおい先輩せんぱい。  そんなに慌ててどうしたんですか」  どうしたもこうしたもないだろう。  ──とは言わず、一度呼吸を落ち着かせた。  ここにきて妙な気恥ずかしさが込み上げてくる。  同じ寮に住んでいるとはいえ、いきなり後輩の女子の部屋に突撃して「バレンタインなのにどうしてチョコをくれなかったのか」と問い詰める先輩の図を俯瞰すると、とても惨めだった。情けなさすぎて憐憫を覚えるほどだ。しかし他人との会話が苦手で根暗な僕が、咄嗟に適当な話題を見つけられるはずもなく、正直に用件を伝えた。  頬を赤らめてそっぽを向く僕と──  冷淡な美貌でまっすぐ見詰めてくる彼女。  甘い雰囲気が流れる予感がしたのに──  彼女は不敵な笑みを浮かべた。 「なるほど。チョコですか。  元より葵先輩にあげる分はありませんが」  例えば照れ臭くて渡せなかったとか。  タイミングが合わずに持ち帰っただとか。  そうした仕方のない理由ではなくて──  そもそも僕の分は用意すらしていなかった。  冗談っぽさは皆無。  彼女は凛々しい目つきだった。  澄み渡る蒼穹をほんのりと